大宮司綾 | 松島流灯会 海の盆 実行委員
さまざまなステージで輝く女性たち。
彼女たちの愛する「かたち」を知ることで、
その「ひととなり」がおのずと見えてくるような気がしませんか。
「かたち」から紐解く二十四のストーリー。
第二話は年間三百万人が訪れる松島で、まちの日常に光を当てる女性のはなし。
竹組の団扇と優しい甘さのカステラ。
普遍的な魅力を持つものたちに、古里の未来の姿を投影します。
住む人の笑顔が、観るべき光なのかもしれない。
松島流灯会 海の盆 実行委員 大宮司綾さん
2011年8月、松島が昭和にタイムスリップした。浴衣姿の人たちが団扇を手に盆踊りに興じる。縁日から興奮ぎみの子どもたちの声が上がる。海は灯籠の柔らかな光に包まれ、やぐら越しの夜空には花火と満月が浮かんだ。「松島流灯会 海の盆」。瑞巌寺に700年続く灯籠流しの伝統を大切にしながら、綾さんが仲間と始めた古くて新しい松島の夏祭り。
「盆踊りは約30年ぶりの復活。あのメロディを聞くとわたしたち世代は血が騒ぐけど、今の子にはそれがない。松島の子ならやっぱり踊らなくちゃ、って思ったんです。あの夜を思い出すと、今でも涙が出る。これが霊場・松島の本来の姿。大事にしたいものなんだって」
「主役は地元の人たちの笑顔」。綾さんら実行委員の願い通り、祭り会場は子どもからお年寄りまでたくさんの笑顔であふれた。観光客をターゲットとした「イベント」ではなく、地元の「お祭り」の楽しい空気は居合わせた観光客の心も満たした。
実行委員のコアメンバー4人は、学校の先輩・後輩だったり、ご近所の顔なじみだったりと全員松島の出身。
「観光地のイメージが強すぎ、松島は遊びに行く所と思われがち。実は暮らすのにもいい場所なんです。『ザ・観光』じゃない、素の松島の空気感を伝えたい、って前々から話していました。かといってわたしたち、『おれたちが変えてやる』というタイプじゃない。自分たちの日常を紹介し、松島での素敵な暮らし方を提案するサイトやフリーペーパーが作れたらいいね、とひっそり思っていたんです。話が進んだところで震災に遭い、状況が一気に変わりました。草食系のわたしたちが一瞬、肉食系に変身。思いを祭りという切り口で一気に形にしました。地元の人たちが楽しめ、誇りに思える祭りをやろうと。ウェブデザイナーや飲食店オーナーなどそれぞれの専門を生かし、慌てて準備しました。わたしは何もできなくて、『思い』だけでしたけど…」
そんな綾さんを実行委員長の千葉伸一さん(愛称/しんちゃん)は「伝染力がある人」「エンジン」と称する。千葉さんは松島の観光メインストリートで菓子店を営んでいる。看板商品はカステラ。お土産だけでなく、地元の人たちの普段使いとしても定着するよう丁寧に焼き上げている。「松華堂菓子店」という名は、明治時代に先祖が営んでいた菓子店の屋号を百年ぶりに復活させた。
「松島をどうしようかと話した場所が、しんちゃんのお店。あの時の気持ちが、(松島湾や五大堂が見渡せる)お店からの景色と一緒に記憶に刻まれている。『懐かしくて新しい』がコンセプトのカステラやお店は、わたしの松島への想いや思い描く未来の姿に重なる」
松島生まれ、松島育ちの綾さんは、自他共に認める「松島ラブ」っ子。
「玄関を開けると松島湾が広がり、周りを歩くのは観光客ばかり。それが当たり前の環境で育ちました。価値に気付いたのは大学時代。友達が松島に来たいって言うんです。一度は見てみたい所にわたしは住んでいるんだ、って改めて思いました。でも『松島って景色だけで何もない』と言う人もいて。実はいいところがいっぱいあるのに。もっと伝えたい、という思いが芽生えた」
観光客向けのお店でのバイト経験もターニングポイントになった。
「自分との何気ない会話が、旅を楽しくさせられることに気付きました。おもてなしは人だなって。観光地のど真ん中にありながら、実家は商売をしていない家。母は庭先の花を通じて、観光客と自然に会話を楽しんでいました。花をプレゼントすると、お礼の手紙や一緒に撮った写真が送られてくることも。母のような普通のおばさんとのやり取りが、その人には旅のいい思い出になった。楽しそうに暮らしている姿こそ魅力的なんだって。いわゆるガイドブックに載っているところだけが〝観る〟べき 〝光〟ではないんですよね」
「松島ラブ」のスピリッツは、中学三年生のお嬢さんにすでに受け継がれている。
「彼女の野望は、外国人が知っている日本の地名に、東京、京都だけじゃなく松島も加えることだそうです(笑)。子どもたちが古里に愛着が持てるように、町の良さをちゃんと言葉で伝えていこうと思っています。呪文のように…(笑)」
綾さんたちのまちづくりのスタンスは、「カンフル剤じゃなくて漢方薬」「ビッグよりもグッド」。
「地味で即効性や派手さはないかもしれない。でもグッドを続ければ、いずれビックになるでしょう」。華美なメイクに頼らない「すっぴん」での勝負。松島の素肌磨きは始まったばかりだ。
松島流灯会 海の盆
東日本大震災で開催が困難になった松島灯籠流し花火大会に代わる祭りとして2011年にスタート。4年目の今年は、より多くの地元住民にかかわってもらい、「みんなでつくり、みんなで楽しむ」草の根的な祭りを目指す。海の盆の一連の取り組みは、12年「グッドデザイン賞」受賞。海の盆のロゴマークをデザインした団扇は、年ごとにカラーを変えて制作。ボランティア、和装で来場した方などにプレゼントしている(数量限定)。
開催/2014年8月15・16日
会場/宮城県松島町・松島海岸中央広場、瑞巌寺参道周辺
問/松島流灯会 海の盆実行委員会事務局(松島観光協会内)
電話.022-354-2618 http://uminobon.jp