新田亜紀子 | 金工作家
さまざまなステージで輝く女性たち。
彼女たちの愛する「かたち」を知ることで、
その「ひととなり」がおのずと見えてくるような気がしませんか。
「かたち」から紐解く24のストーリー。
3話目は14年もの間続けられている「交換日誌」のおはなしです。

心紡ぐ 14年、30冊の交換日誌
金工作家 新田亜紀子さん

新田亜紀子 | 金工作家


新田亜紀子 | 金工作家


 シルバーや真鍮などの金属と、翡翠やアメジストといった天然石を合わせたアクセサリー。ペンダントの裏側には透かし模様が彫られていて、どの角度からも美しさがぶれない。身に着けたらきっと、豊かな気持ちになれる。そう思った。
 作り手である新田さんは、華奢ではかなげな雰囲気の持ち主。ゆったり穏やかな話しぶりで、ほんわかとした空気も纏う。その印象とは異なり、中学、高校時代は運動部でバリバリ活躍。あの「愛ちゃん」との対戦経験ももつ卓球少女だった。高校3年間、ともに厳しい練習に耐えた同期の仲間七人で続けていることがある。「交換日誌」。
「ちょうど3日前に30冊目が届きました。始めて14年になるけど、みんなの字体は全然変わらない。筆圧が強かったり、すごく小さな文字だったり」とうれしそう。
 始まりは部日誌だった。チームの連携を図ろうと、その日の練習メニューなどを書いて、先輩から後輩まで部員みんなで回していたノート。
「わたしたち三年生の最後の試合が終わり部活を引退する時、誰からともなく、部日誌が終わっちゃうのが寂しい、自分たちだけの部日誌を続けようって話が出ました」
 日誌は高校卒業後も当然のように続けられた。とはいえ、秋田、福島、埼玉、東京、仙台と七人は離れ離れに。日誌を渡す手段は郵送に変わり、手元に届く間隔も3、4カ月に一度となった。日々の生活に追われ、日誌が停滞してしまうことも。
「そんな時は“副部長”から催促メールが来るんです。『今どの辺?ちょっと遅いよ』って(笑)。すごくしっかりした子で、その子がいるから続いているのかもしれませんね」
 日誌に綴られる内容はさまざま。日常の出来事、今思っていること、恋愛のはなし、六人へのメッセージ…。
「直接会った時には言えなかったことでも日誌には書ける。落ち込んでいたり、悩んでいる書き込みがあったら、それを読んだ最初の友達が、その子の近くに住んでいる友達にメールして、『会ってみて』ってフォローを頼むこともあります」
 最近は日誌に新たな仲間も登場してくるという。
「結婚した子の旦那さんはみんな日誌の存在を知っていて、日誌が送られてくると、『早く開けたら』って楽しみにしてくれているようです。『○○の夫です。初めまして』って書き込んでくれることもあります」。裏表紙いっぱいに描かれたかわいらしい絵は、メンバーの娘さんの作品だ。

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 子どものころから絵を描くこと、ものを作ることが大好きだった新田さん。高校卒業後はアクセサリー作家を目指し、美術系の短大に進んだ。そこで金属工芸の奥深さにすっかり魅了された。卒業後も学ぶ意欲は衰えず、富山や金沢で彫金、鍛金、鋳金といった金属工芸の技法を一つ一つじっくりと身に付けた。住む土地や環境がどんなに変わろうと、心の中にはいつも仲間や日誌の存在があり続けた。
「不思議なもので、気持ちが落ちている時や地元が恋しくなったタイミングで日誌が届くんですよ。日誌の中のみんなはいつも頑張っていて、悩みながらもいろんなことに取り組んでいた。その姿勢が伝わってくると、わたしもここで止まっていてはだめ、前を向かなくちゃって思えるんです」
 日誌を始めるきっかけにもなった卓球は、さらなる出会いももたらしてくれた。 
「富山で住んだ場所が偶然、とても卓球が盛んな地域でした。そこで地元の実業団の人たちと試合に出たり、子どもたちに教えたりするうちに、一気に知り合いが増えた。普段は接点がない幅広い年代の人たちと出会えて。今でもその時の人たちとは親しくしています」 

新田亜紀子 | 金工作家


新田亜紀子 | 金工作家


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 一方、「卓球ばかりやってきた自分」に負い目を感じたこともあった。短大に入ると、周りはすでに美術の知識や技術をもつ人ばかり。
「スタートが遅かった気がするって、短大の先生に話したんです。そしたら、『新田にとって卓球をしていたことも美術なんだよ』って。救われました。制作には、あと一歩の踏ん張りが求められるときがあります。そこを乗り越えられるのは、卓球で培った精神力や体力があるからだと思っています」
 最後に高校時代から愛用するというラケットを見せてくれた。使い込んだ感たっぷりで、あちこちに痛みも目立つ。でも新田さんが持つと、命が吹き込まれたような説得力が生まれた。ラケットを手にする彼女の表情も一変。りりしい卓球少女がそこにいた。

新田亜紀子 | 金工作家


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にった・あきこ
1981年、宮城県三本木町(現・大崎市三本木)生まれ。秋田公立美術工芸短期大学卒業後、高岡市伝統工芸産業技術者養成スクール、金沢卯辰山工芸工房で学び、2007年4月から古里で制作を開始。同年、油彩・水彩画家 標葉千香子さんの主宰する遊彩工房「花言葉」オープンに際し、共に展示を始める。標葉さんとの二人展やグループ展なども各地で開いている。絵画造形教室の講師としても活躍 
http://ameblo.jp/akikonitta

遊彩工房「花言葉」
住所/宮城県大崎市三本木桑折字多高田15
電話/0229-52-5917
営業/11:00~17:00 水曜定休

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