山本紀子| 大工
さまざまなステージで輝く女性たち。
彼女たちの愛する「かたち」を知ることで、
その「ひととなり」がおのずと見えてくるような気がしませんか。
「かたち」から紐解く24のストーリー。
今回の女性が選んだかたちは、公私とものパートナーである〝ご主人〟です。
宮城県登米市迫町の山あいに山本家はある。
この先に家があるの?道、間違ってない?とちょっぴり不安になりながら到着すると、愛犬ススとともに紀子さんが笑顔で迎えてくれた。彼女のお仕事は「大工」。こんがりと焼けた肌、ノースリーブから伸びた引き締まった二の腕がその仕事ぶりを物語る。
職人歴は八年になるが、「本物の大工とはいえない」という。「何もないところから想像し、設計し、形にするのが大工。わたしのように、図面に沿って作るだけなら大工とはいえないかな」
ご主人の琢磨さんは、紀子さんがいう「本物の大工」。ご夫婦は「ietoka(イエトカ)」の屋号で、人にも地球にも優しい自然素材の家づくりをすすめている。二人の自宅にも、わらを混ぜて熟成させた土壁、米のりの天然接着剤など自然に還る素材が至るところに使われている。
イエトカの由来は、無駄なコストや材料をできるだけ省き「家を建てることのハードルを下げたい」との願い。「一生に一度の買い物、ローン返済のために働く。そんなふうに家に振り回されるんじゃなく、旅行や遊び、食事にもお金や時間を使ってほしい。暮らしの中に、〝旅行とか〟〝遊びとか〟と同列に〝家とか(イエトカ)〟がくるように」
セルフビルドのお手伝いや、時には物々交換で仕事をすることも。小屋を建てた報酬は依頼主が丹精込めて作った菓子やパン、といった具合だ。そこにはお金に換算できない物や手間の価値が介在し、双方の結びつきも深める。
二人は東京出身で高校の同級生。
くれた。彼女のお仕事は「大工」。こんがりと焼けた肌、ノースリーブから伸びた引き締まった二の腕がその仕事ぶりを物語る。
職人歴は八年になるが、「本物の大工とはいえない」という。「何もないところから想像し、設計し、形にするのが大工。わたしのように、図面に沿って作るだけなら大工とはいえないかな」
ご主人の琢磨さんは、紀子さんがいう「本物の大工」。ご夫婦は「ietoka(イエトカ)」の屋号で、人にも地球にも優しい自然素材の家づくりをすすめている。二人の自宅にも、わらを混ぜて熟成させた土壁、米のりの天然接着剤など自然に還る素材が至るところに使われている。
イエトカの由来は、無駄なコストや材料をできるだけ省き「家を建てることのハードルを下げたい」との願い。「一生に一度の買い物、ローン返済のために働く。そんなふうに家に振り回されるんじゃなく、旅行や遊び、食事にもお金や時間を使ってほしい。暮らしの中に、〝旅行とか〟〝遊びとか〟と同列に〝家とか(イエトカ)〟がくるように」
セルフビルドのお手伝いや、時には物々交換で仕事をすることも。小屋を建てた報酬は依頼主が丹精込めて作った菓子やパン、といった具合だ。そこにはお金に換算できない物や手間の価値が介在し、双方の結びつきも深める。
ハンドボール部でともに高みを目指した仲間だ。紀子さんは大学、琢磨さんは得意のスキーの腕を生かしたスキー場パトロールと卒業後の進路は別々だったが、22歳からお付き合いをはじめ、28歳で結婚した。30歳のころ、手に職を付けようと琢磨さんが大工の道に入る。紀子さんは当時、都内の企業で働くOL。仕事に追われ、時間も不規則な紀子さんに琢磨さんは「一緒にものづくりを仕事にしよう」と誘った。収入の不安などから戸惑いはあったというものの、最終的には同じ道を選んだ。
選択は正解だった。持ち前の運動神経の良さと体力を生かし、琢磨さんと一緒に高所作業もこなす。一方で女性ならではの視点で、家事動線や間取りなどに細やかな提案やアドバイスもできる。
「大工は衣食住にかかわる、シンプルで決してなくならない仕事。人の役に立てていることを直に感じられます」
東日本大震災のボランティアをきっかけに、宮城への移住を決めたのも琢磨さんだった。「でも時々、突っ走って視野が狭くなることがあるから、その時は手綱を引いてあげないとね」と紀子さんはほほ笑む。
紀子さんは琢磨さんを
「温和だけど、芯が強くて行動力がある人」という。
2014年に着工した山本家の住まいは、仕事の合間に少しずつ手を加えているためまだまだ建築途中。優しく包み込む大屋根、美しく力強い木組み…。作り手の人柄を映し出したような心地よい家は、夫婦とともに成長を続ける。
イエトカ農園でかなえる
「半農半大工」の暮らし
山本家の畑「イエトカ農園」では、四季折々の野菜約20種が次々と実りをもたらします。「循環する暮らし」を楽しむ山本家らしく、野菜作りは苗ではなく種から。自分で育てた野菜から種を取り、育て、収穫する。この繰り返し。農業は移住後に始め、本を見ながらの独学にもかかわらず今年の夏もキュウリやナスが豊作となりました。
お料理上手でもある紀子さん。昨年2月、本誌でもおなじみ「さとのわ」ワークショップに参加し、みそ造りにも初挑戦。今年は自分たちが育てた大豆「借金なし大豆」(借金がなくなるほど実りがいい品種だそう)で仕込み中です。ゆくゆくは米作りにも挑戦し、自給自足の生活を目指しています。
「薪割りや草刈りなど、大工仕事がない日も何かしら一日忙しくしています。それが楽しくもあるんですけどね。ここで“半農半大工”の暮らしができたらいいなと思っています」