山田好恵|わくわく・のびのび・えこども塾理事
さまざまなステージで輝く女性たち。
彼女たちの愛する「かたち」を知ることで、
その「ひととなり」がおのずと見えてくるような気がしませんか。
「かたち」から紐解く二十四のストーリー。
第五話は「あの日」をきっかけに出会った〝信じるべき人たち〟とともに、
自分を見つめ直しながら、新たなステージへ駆け上がろうとする女性のお話です。

わたしらしく歩む。人を信じ、一歩ずつ。

山田好恵|わくわく・のびのび・えこども塾理事


山田好恵|わくわく・のびのび・えこども塾理事


 宮城県石巻市の高台にある山田さんの自宅。そこには、好きなものだけに囲まれたシンプルな暮らしがあった。整理整頓が行き届き、家具は選び抜いたものばかり。ところどころに飾られた旅の思い出の品は、心落ち着かせてくれる宝物だという。
「震災後、ものやお金に対する価値がまるで変わった。最近はメイクもやめました」と潔い。
 生まれ育った石巻市を襲った震災。「自分さえ良ければいい、家族が生きていればいい、というそれまでの考えは、一瞬にしてかき消された」。極限で芽生えた感情は、「人を信じる」。根底にあった思いだった。

山田好恵|わくわく・のびのび・えこども塾理事


山田好恵|わくわく・のびのび・えこども塾理事


 3人きょうだいの真ん中で、一人娘。朗らかな家庭で、たくさんの愛情を注がれて育った。人を信じる力は、そこで培われたのかもしれない。一方で自立した生活を目指し、20代のころから人生の目標を掲げていた。
「若いころは自分のために生き、結婚したら家族のために生きる。そして子どもがある程度育ったら、社会のために生きる」娘が自分の世界をもち始めると、山田さんは目標を叶える準備に取りかかった。「わたしができることは何だろう」「必要であれば資格も取らなくちゃ」「会社以外の人ともっとつながりをもとう」…。社内ただ一人の女性管理職として仕事に追われながらも、少しずつ気持ちをシフトさせていった。そのスピードを、震災が一気に加速させた。
 震災後、運命的な出会いをした。東京のオーガニックコットンメーカー「アバンティ」社長の渡邊智恵子さん。彼女は震災後いちはやく、特に被害が大きかった沿岸部のお母さんたちに、経済的支援を差し延べた。支援の方法は、単にお金を渡すのではなく、仕事を生み出すこと。
「東北グランマの仕事づくり」と名付けられたプロジェクトは、アバンティから寄せられたオーガニックコットンのハギレで、クリスマスオーナメントを作ることから始まった。電気が通わずミシンも使えない避難所で、手縫いでできる仕事。作品はすべてアバンティが買い取り、初年度で八百万円を売り上げた。それは、東北の「グランマ」たちが日常を取り戻す大きな糧となった。
「人の生きがいは、働いて誰かの役に立つこと」。渡邊さんの考えに、山田さんは素直に感動した。「わたしができるのは、人を信じ、人を応援すること」。震災後、心にあり続けた思いが行動に変わる瞬間だった。会社の枠から飛び出し、個人・山田好恵としても活動を始める大きな転機にもなった。
「東北グランマ」の応援団として、また地元のためのチャリティスタディツアーの企画などに携わる一方、仕事で社会貢献につながる商品企画をするなど色々なことにチャレンジしながら、いつも心は福島原発事故のことを考えていた。そんな折、知人たちが風評被害などで作物が育てられなくなった福島の畑でオーガニックコットンの栽培を開始。福島のほか20カ所以上に栽培地を広め、収穫したコットンで作るTシャツや手ぬぐいの宣伝、販売にも注力することになる。2013年には、渡邉さんが主宰する「わくわく・のびのび・えこども塾」の理事になる。福島の子らが、自然の中で思い切り体を動かせる場をつくり、さまざまな体験を通じて、生きることの原点を学んでもらっている。

山田好恵|わくわく・のびのび・えこども塾理事


山田好恵|わくわく・のびのび・えこども塾理事


 活動を通してたくさんの人と出会い、彼女、彼らとは〝何十年も付き合ったかのような〟深い関係を築いた。「人間として学ぶ点が多い成熟した人たち。活動や生き様に触れるたび、わたしもああなりたい、近づきたいと思わせられる。一方で、自分らしさも模索する日々」
 震災で失ったものはあまりにも大きい。でも、「前に進む力や、人と出会わせ、つなげる力、そして新しい自分に産まれ変わるチャンスを与えてくれたことは大きなギフト」とも思っている。
「震災を『悲惨な自然災害がありました』だけでは終わらせたくない。一万六千人もの犠牲を、違うカタチで表していかなければ、といつも考えている。明日が来るのは必然ではないから、より良い自分になれるよう、今を一生懸命に生きなくちゃ」と自分に言い聞かせる。

山田好恵|わくわく・のびのび・えこども塾理事


山田好恵|わくわく・のびのび・えこども塾理事


 オーガニックコットンで作られた手ぬぐいには、購入者であるオーナーが好きな言葉を入れられる。山田さんは希望の光である子どもたちに託すメッセージを添えた。
「福島のこどもたちよ 未来を生きる君たちよ どうか健やかに 心やさしく育ってほしい 私に出来ることは その未来へ続く道の 一片の小石になること 3.11 山田 好恵」
 人を信じ、たおやかな心で人に寄り添う。そして、今日よりも明日が、もっと好きなわたしであれるよう、自分に正直に一歩ずつ歩みを進める。その姿勢は、華美ではないけれど使い込むほどに柔らかさや風合いが増す、あの手ぬぐいにどこか通じる。

山田好恵|わくわく・のびのび・えこども塾理事


やまだ・よしえ
1964年生まれ。宮城県石巻市出身。勤務先である同県大崎市松山の酒造メーカー「一ノ蔵」ではマーケティング室長を務める。女性向け商品を次々と開発し、日本酒の門戸を広げている。同じ石巻市出身の夫、高校生の視点でふるさとの復興に取り組む娘と3人暮らし。
わくわく・のびのび・えこども塾 http://ecodomo.web.fc2.com/


   
Film Arrange Egg

ページトップへ