遊佐真里江|「古遊工房」アドバイザー
さまざまなステージで輝く女性たち。
彼女たちの愛する「かたち」を知ることで、
その「ひととなり」がおのずと見えてくるような気がしませんか。
「かたち」から紐解く24のストーリー。
7話の主役は一本のネックレス。「頑張ったわたし」に贈られた大切なプレゼントです。

遊佐真里江|「古遊工房」アドバイザー


輝いて、見守って10年。いつも、わたしの胸元に

 20代後半からの10年間。女性にとって最も変化に富む歳月かもしれない。彼女の場合もそう。結婚とそれに伴う新しい暮らし、情熱を燃やした仕事から離れる日、わが子たちと出会えた瞬間…。いつどんな時も、胸元には華奢なネックレスが輝いていた。

 大学卒業後、事務の仕事に就いた。しっくりこなくて1年半で辞めた。目標が定まらずバイト生活の日々。そんな時、テレビ局を独立し映像編集会社を立ち上げた義兄に「手伝ってほしい」と声を掛けられた。
 「編集の〝へ〟の字も知らない全くの素人。それまでフラフラしていたから、社会に適応することから鍛えられた感じでした(笑)」
 手掛けたのは、主にドキュメンタリー番組。思惑通りにコトが進まない動物や人の姿を捉えた膨大な映像を、一つひとつ繋いでいく。
 「できあがった番組の試写会というのがあって、そこで否定されると一から作り直し。とても厳しい世界でした。番組制作に関わっている人たちは皆、高学歴で経験を積んだ人たち。そんな大の大人たち数人が、窓のない空気が淀んだ編集室で丸くなり、頭を抱えながら本気に悩んでいる。たかだか25分から30分程度の番組を、あーでもない、こーでもないと10時間議論することもありました」
 ものを生み出す難しさ、より良いものを目指す貪欲さ。必死な姿は衝撃的だった。そして、その空間に共にいられることに喜びも感じた。
 映像から教わることも多かった。
「(編集席に)座りながらにして、普通に生きている中では出合えないものや話しに接することができた。例えば本音を引き出したインタビュー。どんなに結果を出し、活躍している人でも、実はすごく悩み、頑張っているんだと気付かされた」
 それまで、「頑張る姿」を人に見せることに否定的だった。でも、実は大切なことなのかもしれない。意識が変わると、仕事が次々と舞い込み、素晴らしい番組にも巡り合えた。
 長続きしなかった仕事。気付けば、自己最長の勤続年数が過ぎていた。まだまだ納得はできないけれど、自分なりに仕事に充足感を得られるようになっていた。

遊佐真里江|「古遊工房」アドバイザー


遊佐真里江|「古遊工房」アドバイザー


 そんな時、件のネックレスと出合う。
「大きな仕事をやりきった自分にご褒美を選んでいたんです。イニシャルのMが刻印された小ぶりなネックレスが目に入ってきて、着けてみたらしっくりきた。そうしたら、一緒にいた職場の女性の先輩が、結婚が決まっていたわたしのお祝いも兼ねて『プレゼントしてあげるよ』って。決して安価なものじゃなかったんですけどね…」
 アクセサリーは好きだけど、ネックレスを着ける習慣はなかった。でもそれからは、肌身離さず身に着けた。寝る時も、お風呂に入る時も、出産時も…。「切れたり、はずれたりしてもちゃんと戻ってくる。縁があるのかな。今ではわたしの体の一部」
 長女の出産を機に映像編集の仕事を辞め、工務店を営む夫のサポートに専念することにした。映像と家。出来上がるモノは違うけれど、大人たちが真剣に向き合い、何かを生み出すことに変わりはない。夫が生まれ育ち、今は自分の地元でもある鳴子で「素敵なこと」をやりたい。新しい夢に向けた準備も進行中だ。 
 「頑張ったわたし」に贈られたネックレス。10年後も20年後も、あの時のわたしに負けない自分でありたいと思う。

遊佐真里江|「古遊工房」アドバイザー


遊佐真里江|「古遊工房」アドバイザー


遊佐真里江さん
もうひと つの〝かたち〟

古遊工房のしごと
真里江さんが夫・茂樹さんと営む古遊工房は主に古民家再生、伝統構法住宅を手がける工務店。その一つ、飲み喰い処「玄孫」は2015年3月オープン。古民家再生のエキスパート・大角雄三さんの設計で、茂樹さんには憧れの人との“共演”となった。明治初期建造の土蔵を移築再生した店構えは重厚かつモダン。道行く人が思わず見入ってしまう存在感を放つ。「古遊工房が頑張ってきたことの集大成。注目度も上がり、わたしたちにとってターニングポイントになった」。お酒好きな真里江さん。「日本酒も豊富ですよ」と付け加える。

飲み喰い処 玄孫
住所/仙台市青葉区本町2-8-1
電話/022-397-6801
www.sendai-oyaji.jp

遊佐真里江|「古遊工房」アドバイザー


遊佐真里江|「古遊工房」アドバイザー


朝のじかん

自宅近く、鳴子・川渡の河川敷をウォーキングするのが朝の日課。早朝5時。家族が起きるまでの約1時間、音楽は聴かず、鳥のさえずりや川音を耳にしながら歩いたり、走ったり。「家を出る前は億劫だけど、一歩外に出れば朝日がすごく気持ちいい。その日のスケジュールを頭の中で整理したり、朝ご飯の献立を考えたり。心も体もリセットできる大切な時間です」。春になると河川敷は菜の花や桜で彩られる。見ごろに合わせ「菜の花フェスティバル」も開かれる。


遊佐真里江|「古遊工房」アドバイザー


古遊工房 株式会社 遊佐建築
住所/宮城県大崎市鳴子温泉字星沼77-47 電話/0229-87-2062
www.koyu-kobo.co.jp


   
Film Arrange Egg

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